式神の「式」は「もちいる」という意味で、式神とは「神をもちいる」ということである。
そのため、式神という特別な神がいるわけではなかったのだが、いつのまにか鬼神の一種として考えられるようになった。
式神は中国の道教でも用いられており、『太上六壬明鑑符陰経』において道士は敵を倒したり、身を隠すために六壬の神である十二月・十二天将を用いていた。
式神は陰陽師が占いをするときに用いる六壬式盤上の神であるため、「式神(式盤の神)」と呼ばれた。
式神の伝説
式神が登場する説話
『今昔物語集』巻24第16話では、播磨国から来た法師が童子の姿をした式神を連れている。安倍晴明は法師に実力を試されたのを不快に思い、法師の式神を隠した。また、晴明が式神で蛙を潰す話ある。『宇治拾遺物語』にも同様の説話が収録されている。
『宇治拾遺物語』26話では、烏の姿をした式神が蔵人の少将に向かって糞を落とす。その後、陰陽師が式神を使って少将を手にかけようとするが、晴明の身固めによって跳ね返され、陰陽師自身が式神に打たれて死んでしまう。
『宇治拾遺物語』184話では、藤原道長に呪咀を行った者が道摩法師が確かめるために晴明が紙を鳥の形に折って呪文を吹き込んで空へ投げると、紙は白鷺になって飛んでいった。
宇治拾遺物語 | 26話 晴明封蔵人少将事 |
宇治拾遺物語 | 126話(巻11第3話)晴明心見僧事 |
宇治拾遺物語 | 127話(巻11第3話)付 晴明殺蛙事 |
宇治拾遺物語 | 184話(巻14第10話)御堂関白御犬晴明等奇特事 |
今昔物語集 | 巻24第16話 安倍晴明随忠行習道語 |
『今昔物語集』に登場する式神は神霊的存在で、仏教における護法善神の一種『護法童子』である。
修験道や密教で使役される鬼神と本質的には同じ類のものである。
古代中国で発展した禁術の一種
人を禁ずれば人は動けず、虎を禁ずれば虎は地に伏す、といったものである。
この禁術が病に効くということで中国の官僚組織に取り込まれて呪禁道となり、日本に輸入された。
道教の剪紙成兵術
紙で作った人形を人か鬼神のようなものに変えて駆使する術。
紙人形や木人は呪術でよく使われる道具で、そこに術者が命を吹き込むことによって動き出す。
このような術は陰陽師に限らず、世界中の呪術者に使われている。
無生物に魂を吹き込むことは可能なのか
陰陽道において、大祓で罪や穢れを肩代わりして川へ流される人形は、対象者の一部分、すなわち分身として処理されることで初めて役割を果たす。
また、呪詛で使う人形においても、敵の魂を人形に吹き込むことができるからこそ相手にダメージを与えることができるのである。
したがって、無生物に霊力を吹き込んで使うことも不可能とは言えないことになる。
また、これらの無生物から成る式神には必ず用途があり、目的が果たされれば元の無生物に戻るのも共通している。
実際の生物で式神を作成する『蠱毒』
実際の生物を用いて式神を作る方法を蠱毒という。
狭い容器の中に蛇やガマを入れ、共食いをさせて生き残ったほうを使う呪術。
犬神
怨念の強い大型の生物を用いて呪詛をかける。
式神と十二天将(十二神将)
十二天将(十二神将)は、陰陽道の六壬式課で用いる一年と十二ヶ月から割り出された神である。
一年十二ヶ月が五行に配分されるように、十二神将も五行に配分される。
仏教の十二神将とは別の存在である。
順番 | 名前 | 五行 | 十二支 | 役割 | 吉凶 |
---|---|---|---|---|---|
前一 | 騰蛇 | 火 | 巳 | 驚恐怖畏 | 凶 |
前二 | 朱雀 | 火 | 午 | 口舌懸官 | 凶 |
前三 | 六合 | 木 | 卯 | 隠私和合 | 吉 |
前四 | 勾陳 | 土 | 辰 | 戦闘諍訟 | 凶 |
前五 | 青竜 | 木 | 寅 | 銭財慶賀 | 吉 |
天一 | 丑 | 福徳 | 吉 | ||
後一 | 天后 | 水 | 亥 | 後宮婦女 | 吉 |
後二 | 太陰 | 金 | 酉 | 弊匿隠蔵 | 吉 |
後三 | 玄武 | 水 | 子 | 亡遺盗賊 | 凶 |
後四 | 大裳 | 土 | 未 | 冠帯衣服 | 吉 |
後五 | 白虎 | 金 | 申 | 疾病喪 | 凶 |
後六 | 天空 | 土 | 戌 | 欺殆不信 | 凶 |
十二神将とは五行が変容して一年十二ヶ月の吉凶禍福を司る神となったものである。
また、彼らは晴明たち陰陽師が過去・現在・未来を察するのに用いている六壬式盤の神であり、式盤の神―式神である。
十二月将
亥から数え始め、子で終わる。
月 | 十二支 | 式神 |
---|---|---|
一月 | 亥 | 徴明(登明) |
二月 | 戌 | 河魁 |
三月 | 酉 | 従魁 |
四月 | 申 | 伝送 |
五月 | 未 | 小吉 |
六月 | 午 | 勝先 |
七月 | 巳 | 太乙 |
八月 | 辰 | 天罡(天剛) |
九月 | 卯 | 大衝(太沖) |
十月 | 寅 | 功曹 |
十一月 | 丑 | 大吉 |
十二月 | 子 | 神后 |
『五行大義』曰く、天罡は北斗七星の柄であり、その神は剛強である。河魁は北斗七星の魁首である。
また『九曜秘暦』曰く、羅睺は悪星であり、黄幡神でもある。羅睺に殺気があるのは、天罡でもあるからだ。計都もまた、悪星であり豹尾神でもある。計都に殺気があるのは河魁でもあるからだ。
また『有記』曰く、天罡は(十二神における)辰神で、文殊師利菩薩でもある。河魁は戌神で、観自在菩薩でもある。これらの陰星は文殊・観音の応化なのだ。
陰陽家の十二神のなかで、河魁と天罡は悪毒猛将の神である。式を封じて厭鎮するとき、この二神を以て猛将とする。(『北斗護摩集』)