『九条殿遺誡』は10世紀半ばに右大臣藤原師輔が記した家訓書。
平安貴族の一日
起床後の作法
step.1
朝起きたら、小声で属星の名号を七遍唱える
step.2
鏡で自分の顔をよく見て、異変がないか確認する
step.3
【毎日】具注暦を見て、その日の吉凶を知る
step.4
楊枝を取って西に向かい、手を洗う
step.5
仏名および常に崇敬している神社を念じる
step.6
昨日の出来事を記す
備忘録として用いる。具注暦に年中行事を注記しておく。昨日の公事を書き、私的なことは書かない。ただし、重要な公事や天皇・父親に関する出来事などは、別記に記して後の手本とする。
step.7
粥を食べる
step.8
頭を梳く
三日に一度でよい。
step.9
【丑の日】手の爪を切る
step.10
【寅の日】足の爪を切る
step.11
日を選んで沐浴する
五日に一度でよい。
『黄帝伝』によると、毎月一日に沐浴を行えば短命となり、八日に沐浴を行えば長寿を得る。十一日は視力がよくなり、十八日は盗賊に遭う。午の日に沐浴すれば愛敬を失い、亥の日に沐浴すれば恥をかく。寅・辰・午・戌の日は悪日なので入らないほうがよいとされている。
宮中での心得
- 衣冠を身に着け、身だしなみを整える
- むやみに人に会ったり、多くの言葉を交わさない
- 他人のことをとやかく言わない
- 自分の仕事に専念する
- 口は災いのもとなので、言葉を慎むよう努める
- 公事については、文書を見る。必ず情けを留めて見る
- 朝暮の膳は食べすぎず、飲みすぎない。食事の時間になる前に食べない
- 体調が悪かったら、早めに假文を提出する。提出しなければ公事に支障が出る。その誹りは最も重い
- 節会の日は、衣冠を整えて早めに参内する
- 大風・疾雨・雷鳴・地震・水火の異変など非常事態があったときは、まず親のもとを訪ね、それから朝廷に参内する
教訓
幼年期
朝は学問を修め、書を読んで学ぶ。その後は、遊んでよい。ただし、鷹・犬による狩猟や博奕は重く禁ずる。元服してから、官位に就くまでも同じである。
仏を大切にする
早く自分の本尊を定め、手を洗って宝号(仏・菩薩の名)を唱える習慣を身に付けること。できるだけ真言を読誦せよ。多少は人の機嫌を伺うべし。仏を信仰しない者は短命に終わる。見本となる存在は近くにいる。
清涼殿落雷事件の引用
関白貞信公(藤原忠平)が語って言うには、延長八年(930)6月26日、清涼殿に落雷があったとき、侍臣たちは真っ青になった。しかし、私は三宝に帰依していたので、特段恐れることはなかった。一方、大納言藤原清貫や右中弁平希世は常日頃から仏法を敬っていなかった。ゆえに、この両人は若死にしてしまったのだ。このことから考えると、仏法に帰依すれば災いから逃れられるのだ。
清涼殿落雷事件―菅原道真の怨霊による落雷の祟り
菅公の祟り 清涼殿落雷事件 清涼殿落雷事件は、延長八年(930)6月26日に平安京内裏の清涼殿南西の第一柱に雷が落ちた事件である。この日は清涼殿において干ばつによる雨乞いの実施について会議が予定されて ...
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また、信心貞潔智行の僧とできるだけ多く会話をすれば、現世のみならず来世でも救われる。
天皇に尽くし、父母を敬う
天皇に忠貞の心を尽くし、親に孝敬の誠を尽くせ。兄を父のように敬え。弟を子のように愛せ。公私大小のことについて、必ず志を同じくせよ。少しも隔たりがあってはならない。もし不安なことがあれば、常にその旨を語って述べよ。恨みがあってはならない。姉妹とも仲良くせよ。
また、見聞きするところによると、朝夕必ず親に会え。情けをかけよ。親に悪意があれば、速やかにこれを絶て。もし疎かにすることがあっても、親に丁重に向き合え。病気でないのなら、毎日必ず親に会うべし。もしけが人がいたら、速やかに消息を尋ね、安否を確認すべし。
対人関係の心得
- 誹謗中傷・悪口を言わない
- 人の善悪について話さない
- 公私混同しない
- 他人の家の事情にたやすく首を突っ込まない
- むやみに人と交わらない
- 人から物を借りたら、早めに返す
質素倹約のすすめ
- 衣冠から馬・車に至るまで、有るものを用いる。美麗を求めてはならない
- 身の丈にそぐわない華美なものを好んではならない。必ず誹りを受ける