日本神話

宇迦之御魂神

玉藻前は天照の分け御魂…という設定なので天照の側面が注目されがちですが、実際は「天照=大日如来=荼枳尼天と習合した稲荷明神(宇迦之御魂神)なので、稲荷明神としての側面も持ち合わせています。
そんなわけで、今回は宇迦之御魂神の解説をします。

「アマテラス(垂迹)=(本地)大日如来(法身)=(報身)ダキニ天」。(中略)さらにダキニ天は、白狐や野干(オオカミのようなもの)に乗る姿で描かれることから、稲荷信仰と融合(習合)して、稲荷明神「ウカノミタマノカミ(宇迦之御魂神)」と同一視される。こうして、アマテラスの性格の一つとされる玉藻の前は、晴れて狐耳の良妻の姿をとるわけである。

『古事記』では宇迦之御魂神、『日本書紀』では倉稲魂命と記す。
名前の「宇迦(ウカ)」は大宜都比売や保食神のケ・ウケと同じく『食物』という意味で、「ウカノミタマ」という名は「稲魂(穀霊)」そのものだということを意味する。
五穀(米・麦・粟・きび・豆)と養蚕を司る穀物神・農耕神で、全国各地にある稲荷神社の祭神として祀られ、「お稲荷さん」として親しまれている。
豊宇気毘売とようけびめ神、豊宇賀能売とようかのめ神、若手賀能売わかてがのめ命、御食津みけつ神、御膳魂神なども宇迦之御魂神と同様に稲魂を神の名としたものである。

『古事記』における記述

素盞鳴尊と神大市比売命との間に生まれた御子であるが、どのような神かについての記述はない。

『日本書紀』における記述

伊弉諾尊と伊弉冉尊が大八州を作った際に飢えを感じて、宇迦之御魂神を生んだ。
神生みの段の一書第6に「飢えませる時に生みませる御子を倉稲魂命と号す」とある。

女神である理由

稲魂を神名とする神の多くは女神であることから、稲魂の性別を女性として考える伝承があった。
また、稲魂の祭事を司ったのが女性であったことに由来するという説もある。

宇賀神との習合

宇賀神は「ウカ」の音が通じることから宇迦之御魂神と習合して豊作を司る神となった。

稲荷明神として

古代では各地の有力豪族がそれぞれ独自の氏神(守護神)を祀る風習があった。
稲荷神もそうした神の一人で、京都地方の豪族・秦氏がその氏神の農耕神として祀っていた神である。

荼枳尼天との習合

平安時代初頭、唐から帰国した空海が真言密教を伝えた。
空海は嵯峨天皇から東寺(教王護国寺)を与えられ、東寺が密教の道場として栄える基礎を作った。
この時、秦氏は伏見の稲荷山から東寺を建造するための木材を切り出して空海に提供した。
これがきっかけとなり、稲荷神は東寺の守護神として祀られるようになったのである。

そうして密教と結びついた結果、白狐にまたがる荼枳尼天の姿が稲荷神と同一視されるようになった。

農耕の神から商工業の神へ

中世から近世にかけて商工業が発展し、稲荷神もまた時代の変化に対応し、本来の農耕神から商工業の守護神としての側面も持つようになった。

江戸時代では大名屋敷や町屋にも稲荷神が祀られるようになり、「伊勢屋 稲荷に 犬の糞」という俗言に例えられるほど至るところで見かけられるようになった。

こうして稲荷神は現代に至るまで、人々の衣食住を始めとした日々の生活に関する願いや悩みごとにも対応する便利な神様としての性格を広げていったのである。

稲荷神社

稲荷神こと宇迦之御魂神を祀る稲荷神社は、全国に4〜5万社はあるといわれている。

和銅四年(711)、稲荷山三ヶ峰(現在の伏見稲荷神社がある地域)に稲荷神が鎮座した。

稲荷神社は神道系と仏教系に分かれる

全国の稲荷神社は神道系(神社)仏教系(寺)に大別される。
神道系では伏見稲荷神社を総本社とし、宇迦之御魂命を祀る。一方、仏教系は豊川稲荷を総本山とし、荼枳尼天を主神として祀っている。
どちらも、ご利益による差はない。

また、伏見稲荷神社(京都)・豊川稲荷(愛知)・祐徳稲荷(佐賀)の三社を以て日本三大稲荷と呼ばれる。

豊受大神と同一視されることも

宇迦之御魂神は食物を司る側面から、伊勢神宮の外宮に祀られている豊穣を司る女神・豊受大神と同一視されることもある。

稲荷神の神使は狐

稲荷神の他にも神と生き物との関係は多く見られるが、中でも蛇・猿・狐は山の神との関係が深く、稲荷神の最初の神使は蛇であった。

狐は山に棲む獣で、冬から春にかけて里に降り、穀物を食い荒らすネズミを取って食べる。
一方、古代民族信仰における山の神は春に山を下って田の神となり、秋の収穫が終わった後は山に帰ると考えられていた。

こうした狐と山の神の習性が結びつき、狐が稲荷神の使いだと考えられるようになった。

善い狐と悪い狐

稲荷神が荼枳尼天と習合した平安時代以降、中国から「狐は霊力を持ち妖術を駆使する」という思想が日本に流入したことによって、陰陽師や呪術者が狐を用いて呪術を行うようになった。
その中の堕落した者が人間をたぶらかして利を得るために、陰湿なイメージを作り上げたのである。

また、狐は神聖な動物として不思議な力を授けてくれる側面もある。
浄瑠璃『しのだ妻』では、安倍晴明が狐の母親に会って願いが叶う竜宮城の箱と鳥獣の声を聞き分ける宝玉を授かった。

狐狸精

陰の獣である狐に対して、陽の獣は狸である。
古代中国において狐と狸は狐狸精と言って、もともと一つの獣だった。
狐狸精は両性具有の獣で、男女両方の側面をもつ淫欲な精であったといわれている。
この精が男に化ける陽の狸と、女に化ける陰の狐に分かれた。

参考資料

  • 「日本の神々の事典―神道祭祀と八百万の神々」学研プラス、1997

  • 戸部民夫「八百万の神々―日本の神霊たちのプロフィール 」新紀元社、1997

  • 戸部民夫「『日本の神様』」がよくわかる本 八百万神の起源・性格からご利益までを完全ガイド」PHP研究所、2004

  • 多田克己「幻想世界の住人たち 4 日本編」新紀元社、2012年

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