陰陽道

新宅移徙(わたまし)と陰陽師

新宅移徙

「移徙(わたまし)」とは引っ越しのことであり、「新宅移徙」とは新宅へ引っ越すことを意味する。
新宅作法ともいう。
平安貴族が新宅移徙を行うときは、陰陽師が反閇を行う。

平安時代中期の貴族が引っ越す際に必ず行わなければならないと考えられていた儀礼で、これを行わなければ新宅に住めなかった。

新宅移徙と陰陽師

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1
吉日を勘申する

新宅移徙を行うときは、陰陽師などに吉日を占わせた。

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2
新宅を掃除する

藤原道長が東三条第に移徙を行う際は、獄囚たちに新宅の清掃を行わせた。(『御堂関白記』寛弘二年〈1005〉2月4日条)

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3
陰陽師からもらった鎮宅霊符を置く

藤原実資が新宅へ移徙を行う前、安倍吉平から送られた七十二星鎮の霊符を神殿の梁上に置いた。(『小右記』寛仁三年〈1019〉12月21日条)
また、藤原資平も移徙の前に陰陽頭孝秀から進められた霊符を梁上に置いた。(『春記』長久元年〈1040〉12月10日条)

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4
陰陽師が吉時を占う

移徙を行う時間は前日ではなく、移徙当日に陰陽師が決める。
移徙が行われるのは夜の時間帯が多く、戌の刻から子の刻(午後7時~午前1時)の間から選ばれた。

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5
散供を行う

五穀などを撒き散らす。

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6
陰陽師が反閇を行う

陰陽師が反閇を行い、門をくぐる。

反閇
参考反閇(へんばい)

道教では禹歩うほという北斗七星や八卦の意味を込めた歩行呪術がある。この術を用いることによって、悪鬼や猛獣を避けることができるといわれている。 禹歩と玉女反閇法という祭式を組み合わせたものを、反閇へんば ...

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7
黄牛を牽いて門をくぐる

家長の随身が黄牛を牽いて門をくぐる。

賀茂保憲曰く、土公神を鎮めるためだという。(『左経記』長元五年〈1032〉4月4日条)

新宅に連れてきた黄牛は、三日三晩新宅の南庭に繋いでおく。

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9
松明と水桶を持って門をくぐる

二人の童女がそれぞれ水桶と松明を持って門をくぐる。水桶(水)と松明(火)を運ぶので、水火童女という。

以前住んでいた土地に家を再建して移徙を行う場合、この手順は省略される場合がある。

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10
家長が門をくぐる

家長が門をくぐる。

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11
陰陽師が寝殿に昇る

陰陽師が寝殿に昇り、散供を行う。

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12
五菓を嘗める

陰陽師が退出した後、新宅に住む人々が寝殿に入って座り、五種類の果実を嘗める。
旬の果実が用いられる。
その後、邸宅にて簡単な食事をとる。

童女が運んできた松明の灯りは、移徙を行った夜から三日三晩消してはならない。
他にも、さまざまな禁忌がある。殺生をしない、厠に上らない、悪口を言わない、高い所に登らない、親不孝をしないなど。

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13
宅神を祀る

竈・門・厠などを邸宅の各所を司る諸神を祀る。
新宅に運ばれた穀物を供物とし、水火童女が運んできた水桶の水や松明の火を用いて供物の煮炊きをする。

宅神の中でも、竈の神は祟りを及ぼす神と考えられていた。

長和二年(1013)4月11日、皇太后宮に病悩が見られたので、藤原道長が安倍吉平に解除を行わせたところ、竈神の祟りによるものだった。(『御堂関白記』同日条)

また、同年6月8日、藤原道長が病を患っていたとき、小南第にある竈神の御神屋に水が入っていた。
占いによると竈神の祟りだったので、解除を行い御神屋を補修させた。(『御堂関白記』同日条)

新宅移徙と験者

藤原実資が小野宮第へ移徙を行う前、小野宮第の寝殿において五口の僧による仁王経の転読が行われた。(『小右記』寛仁三年〈1019〉12月8日条)
また、藤原道長が東三条第に移徙を行う前に新宅において慶円大僧都による密教修法が行われ(『御堂関白記』寛弘二年〈1005〉2月2日条)、その後二条第に移徙を行う前にも、新宅にて十二口の僧による読経と心誉僧都による密教修法が行われた。(『御堂関白記』寛仁元年〈1017〉10月29日条)

新宅作法の記録

一条天皇の例

藤原道長の例

寛弘二年(1005)2月10日戌の刻、藤原道長は東三条第へ移徙を行った。この時、安倍晴明に新宅作法を行わせた。(『御堂関白記』同日条)

寛弘三年(1006)8月19日戌の刻、藤原道長は小南第に移徙を行った。なお、新宅の儀は行わなかった。(『御堂関白記』同日条)

参考資料

  • 繁田信一「陰陽師と貴族社会」吉川弘文館、2004年

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