基本情報
安倍晴明物語とは
内容
九月の庚申の夜、晴明が殿上に参上したとき、天皇をはじめ若い殿上人の多くが夜更かしをしており、眠気を催していた。
何か眠気を覚ます方法はないだろうかと、天皇は晴明を召して、
「なんとかして、皆の眠気を覚まさせよ」よ命じた。
晴明はこれを慎んで受け、しばらくの間祈祷した。
すると、天皇の前にあった剪灯台をはじめ、ありとあらゆるものが一か所に集まってきて踊り跳ねた。
その様子はひどく激しい動きだったので、天皇は恐ろしくないことをせよと晴明に命じた。
「では、皆さまを笑わせてご覧にいれましょう」
「申楽などであれば笑えるかもしれないが、何かおもしろいことがあるのか」
「申楽でもなく、おもしろいことを話すのでもなく、ただ笑わせて差し上げます」
晴明は算木を持って火の明るい所へ出て、さらさらと置き広げた。
それを見た殿上人たちは「これが晴明殿の言う『おもしろいこと』か。さあ笑おうではないか」などと嘲った。
晴明は返事もせずに算木を置き終え、その中から算木を一本手に持ち「皆さま、存分に笑いなされ」と言って算木を置くやいなや、そこにいた人々がわけもなく可笑しくなって笑い出した。
天皇も笑い転げて部屋の奥に入ってしまい、その場に残っている人々も大いに笑い、その笑い声が鳴り響いた。
何かおもしろいものが見えているわけでもないのにひたすら可笑しくて、笑いを止めたくても止められない。
腹筋がちぎれるような心地で、両手で腹を抱え、涙が出てきて物も言えず、晴明に向かって手を擦りながら笑っていた。
晴明が「だから言ったではありませぬか。もう笑い飽きられましたか」と言うと、皆はやっとのことでうなずきながらも、転げ笑いつつ晴明に向かって手をすり合わせた。
晴明が算木を押し崩すと、あっという間に笑いも醒めた。