基本情報
安倍晴明物語とは
内容
吉備大臣はめでたく帰朝を遂げ、その褒章として官位が上がり、帝をはじめ世間の評判は比べるものがないほどだった。
才学優長の名臣として国家の政治を執り行った。
やがて、歳をとるにつれて吉備公はこう考えるようになった。
「本来ならば唐で生涯を終えていた自分の命が助かり、帰朝して大臣の位までになれたのは、すべて仲麿殿の助けがあったからだ。
この恩返しとして、唐より伝わった『簠簋内伝』を仲麿殿の子孫に譲り、天文地理・陰陽道の博士にすれば安倍家を再興できるだろう」
吉備公は仲麿の子孫を探し回ったが、子孫は仲麿が入唐してから帰朝せずに唐で空しく命を落としたことを聞いて、妻子ともに跡形もなく家も滅んで、いなくなってしまった。
吉備公は「こうなってはどうしようもない。私がこの世を去って百年経ってもこの書を安倍家に伝えるのだ」と遺言して亡くなった。
そんな折、和泉国篠田の里近くにある安倍野という場所に、仲麿の縁者がいると聞いて、吉備公の遺族はその人に『簠簋内伝』を譲り渡した。
しかし、その縁者は久しく庶民に身をやつして農作をし、田畑を耕して細々と暮らしていたので、『簠簋内伝』は代々家の中に埋もれ、誰も学ぼうとしなかった。