あらすじ
今は昔、■■(欠字)という者がいた。
長年連れ添った妻のもとを離れた。
妻はこのことを深く恨み、嘆き悲しむあまり病を患い、数ヶ月苦しんだ後思い煩って亡くなってしまった。
その女に両親はおらず、親の代わりに面倒を見てくれる者もいなかったので、遺体は取り隠されて葬られることもなく、家の中に置かれていたが、髪も抜け落ちず生きているかのような状態だった。
骨もみな繋がったままで、離れていなかった。
隣の家の人が戸の隙間からこれをのぞいて見ると、この上もない恐怖を感じた。
また、その家の中には常に光るものがあった。
それから、常に物音がしていたので、隣人は恐ろしくなって逃げ惑っていった。
さて、女の夫はこのことを聞いて半ば生きた心地がせず、
「どうしたらこの霊の難を逃れられるだろう。私を恨んだまま逝ってしまったのだから、きっと私はあの女に命を取られてしまうだろう」と怖気づいて、■■(欠字)という陰陽師のところに行ってこのことを話し、難を逃れる方法を尋ねた。
陰陽師は「これは、きわめて逃れがたいことです。とはいえ、このように頼まれたのですから、何とかしてみましょう。ただし、そのためにはとても恐ろしいこともしますから、よく心得ておいてください」と言った。
日が沈む頃、陰陽師はかの死人が置かれてある家に夫の男を連れて行った。
男は、人から聞いた話でさえ身の毛がよだつほど恐ろしかったのに、実際にその家に行くとなるととても恐ろしくて耐え難かったので、陰陽師に身を任せて行った。
見ると、本当に死人の髪は抜け落ちておらず、骨も繋がったままで横たわっていた。
陰陽師は、男を馬に乗るように死人の上に跨がらせた。
そして、死人の髪を強く握らせ、「絶対にその髪を離さないでください」と教えて、呪文を唱えた。
「私がここに戻ってくるまでこうしていてください。きっと恐ろしいことが起こりますが、我慢してください」
そう言い残して、陰陽師は出ていった。
男はどうすることもできず、生きた心地もせず、死人の背中に跨ったまま髪をつかんでいた。
そうしているうちに、夜になった。
真夜中になっただろうと思っていると、この死人が「ああ、重たい」と言って立ち上がり、「あの男を探し出してやる」と言って走って出ていった。
何処へともなく、はるか遠くへ走っていった。
けれども、陰陽師に教えられたとおり髪をつかんでいたので、やがて死人は戻ってきた。
元の家に来て、以前と同じように横たわった。
男は、恐ろしいどころではなかった。
何も考えられないような状態だったが、我慢して髪をしっかり握って、死人の背中に跨っていたが、鶏が鳴くと、死人も音を出さなくなった。
そうして夜が明けると、陰陽師がやってきた。
「昨夜は、きっと恐ろしいことがあったでしょう。髪は放さないで持っていましたか」陰陽師が問うと、男は放さなかったと答えた。
すると、陰陽師は再び死人に向かって呪文を唱えて祈祷してから「これで大丈夫です」と言って、男を連れて家に帰った。
陰陽師は「もう何も怖がる必要はありません。あなたが仰ることをどうしても放っておけずにこうしたのです」と言った。
男は涙を流しながら陰陽師を拝んだ。
その後、男は祟りに遭うことなく長生きした。
これは、最近の出来事だろう。
この人の孫は現在も生きている。
また、この陰陽師の子孫も大宿直というところに今もいると語り伝えている。