『簠簋内伝金烏玉兎集(以下『金烏玉兎集』)』は安倍晴明が編纂したと伝えられている占いの実用書である。『三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集』ともいう。陰陽道の秘伝書である。
初出は『簠簋抄』で、伯道上人から吉備真備に渡され、帰朝した吉備から安倍童子(後の安倍晴明)に渡されている。
『金烏玉兎集』は『簠簋内伝』『安倍晴明物語』『泉州信田白狐伝』『安倍保名:連夜説教』にも登場する。
晴明の手元に渡るまでの経緯はそれぞれ異なるが、『簠簋抄』『泉州信田白狐伝』『安倍保名:連夜説教』において「元々は阿倍仲麻呂が日本に持ち帰って子孫に『金烏玉兎集』を渡し安倍家を再興するはずだったが、仲麻呂は唐土にて落命してしまったので、代わりに吉備真備が日本に持ち帰り仲麻呂の関係者に金烏玉兎集を渡す」という流れは共通している。
『簠簋抄』:帰朝した吉備真備は、自分の長寿は仲麻呂のおかげだと思い、常陸国にいる仲麻呂の子孫(安倍童子)に金烏玉兎集を譲った。
『安倍晴明物語』:帰朝した吉備は大臣の座に上り詰め、歳をとるにつれて自分が帰朝して出世できたのは阿倍仲麻呂だと恩を感じて、安倍家の再興を願って和泉国信田にいる仲麻呂の縁者に金烏玉兎集を渡した。
『泉州信田白狐伝』:阿部仲麻呂が遺した陰陽道の秘伝書。唐の玄宗皇帝は仲麻呂の子孫・満月丸にこの書を伝授して安倍家を再興させるはずだった。しかし、満月丸は行方知れずで安倍家は廃れていたので、やむなく吉備真備に渡した。そうして、吉備から子孫の賀茂保憲に伝わり、保憲から安倍保名に伝わった。この書には荼枳尼天の法が記されており、野狐が読めば神通力を自在に操れるようになるという。
金烏と玉兎
金烏は太陽の象徴であり、玉兎は月の象徴である。太陽(=日)と月の関係であることから、月日(歳月)の意味でもある。月日の経つことの早いさまを「烏兎匆匆」という。
金烏
金烏は中国神話に登場する金色の烏で、太陽の象徴である。古代中国において、太陽は烏の姿をしていると考えられていたからである。三本足なので、三足烏ともいう。三という数字は、陽の数を表している。
1972年、馬王堆漢墓から出土した帛画に描かれている烏は二本足であった。
『史記』『淮南子』には、十個ある太陽を毎日一つずつ背中に乗せて空を渡るとされている。太陽の御者である羲和が夜明けに太陽を東から西へ運ぶとき、三足烏が地上の仙草を食べようとして職務放棄してしまうので、三足烏の両目を手で覆って御する。
また、三足烏は西王母に食事を運ぶ役目を負っている。
漢代の画像石には、三足烏が西王母の傍らに侍る姿が描かれている。
玉兎
玉兎は中国神話に登場する兎で、月の象徴である。
なお、中国には「玉兎」という名前の無人月面探査車がある。この玉兎は、月探査機「嫦娥3号」及び「嫦娥4号」に搭載されている。「4号」に搭載されている方は「玉兎2号」という名前が付けられている。
嫦娥
嫦娥は、中国神話に登場する月の女神である。夫の后羿に代わり、西王母からもらった不死の仙薬を飲んで月に住んだ。「嫦娥奔月(嫦娥、月に奔る)」という。