説話

簠簋抄 現代語訳 三国相伝簠簋金烏玉兎集之由来

基本情報

原文

先ず、此の書は佛暦經三千百巻に説き給うと云う。一義又百六十巻に説き給うと云う。両義有り何れにても文殊結集し給うと意を得るべきものなり。

天竺より大唐へ伝来を意得は、大唐雍州城荊山の麓に伯道上人と云う化来の人有り。彼の伯道は天地陰陽の至理を知らず、故に是れを工夫せんと思い、小船を用意有りて、大河に押し下し波濤はとうに揺られ給う所に、或る時童子了角を学び浮木に乗り来たり給て、伯道に問い給うは、和尚は何方より来たり給うやと云う。伯道答えて、我天地の間に孕まれ生を震旦の国に測居といえども、天道の至理詳らかず、故に工夫せんと海底に棹さすと答う。其の後童子小船に乗り移り、船を拍って嘲って曰く、船へ棹さし海に揺られて天地陰陽の道理を知らば、漁人舟人者悉く智者にて有るべきかなと云う。伯道曰く全く童子の仰せしかなり。童子は天地の至理鍛錬しおわしますかと問う。童子曰く、天地の道理を相伝有りたくは、天竺聖霊山へ参らるるべしと云いて虚空に失せ給うなり。
其の後、伯道上人急ぎ恒河の辺りに舟を操り寄せ棹を投げ、聖霊山に詣でせんと歩行斜めならず所に共命鳥ぐみょうちょうを迎えに給り、彼に乗り程なくして霊山へ着く。聖霊山語るに及ばず、七宝瑠璃を以て座とし、諸の菩薩は四方四隅に囲繞し安養浄土に異ならず、しかるに能く中台の尊容を見奉るに、以前了角かんりょうの童子は即ち大聖文殊にておわしますなり。
彼の文殊堂にて、この書を皆文殊より伯道に相伝有るなり。その共命鳥を正しく文殊より伯道に貸し給う。共命鳥に乗り五天竺須弥世界を一時の間に走り廻り見達す。其の功力によって羅漢果を受け、無常無我の覚りを成す故に声聞の聖者なり。又共命鳥に乗りて元の荊山に帰り、荊山に於いてこの書を秘蔵なり。其の後内裏に納めらるるなり。大方天竺より大唐への由来此の如くなり。

情節

金烏玉兎集は天竺から大唐に伝わった。
大唐の雍州にある城荊山の麓に伯道上人という化来の人がいる。伯道は天地陰陽の真理を未だ知らずにいたので、これを究めようと思い、小船に乗って大河を下った。
伯道が波に揺られているところに、童子が浮木に乗ってきて伯道に尋ねた。
「和尚さまは何処からおいでになったのですか」
「私は天地の間に生まれ、震旦の国に住んでおりましたが、天道の真理が未だ分からずにいたので、これを究めようと船を漕いでいるのです」
伯道が答えると、童子は小船に乗り移り船をたたいて嘲った。
「船を漕いで海に揺られているだけで天地陰陽の理が分かるのならば、漁師や船人はみな智者になっているでしょう」
「まったく、貴方さまの仰るとおりです。貴方さまは天地の真理を鍛錬しておられるのですか」
「天地の道理を伝えられたいのなら、天竺の聖霊山に参られるのがよろしい」
そう言うと、童子は姿を消した。

その後、伯道は急いで船を降りて、聖霊山に参詣しようと歩いていたところに共命鳥が迎えに来た。伯道はそれに乗り、程なくして聖霊山に着いた。
聖霊山には七宝瑠璃で飾られた座があり、周囲は諸々の菩薩に囲まれており、まさしく安養浄土のようであった。それからよくよく中央の台座を見ると以前会った童子がいて、その正体は文殊菩薩であった。
文殊堂にて、伯道は文殊から金烏玉兎集を相伝され、共命鳥を貸してもらった。伯道はそれに乗って世界中を一時の間に飛び回った。その功力によって伯道は羅漢果を賜り、無常無我の悟りをなして聖人となった。それから、伯道は共命鳥に乗って荊山に帰り、この書を秘蔵した。その後、唐の内裏に納めた。
金烏玉兎集は天竺から大唐に渡ってきた経緯は、このようであった。

補足解説

天竺

古代インド。

大唐雍州城荊山

中国の雍州にある荊山。雍州は古代中国の九州のひとつとされた州名。開元元年(713)に京兆府に昇格したことによって、行政区画としての雍州はなくなる。荊山は湖北省南漳県の西にある山である。
日本において、雍州は山城国(京都を含む)の雅称として使われていた。

化来

仏が元の姿を変えて現れること。

震旦

中国の異名。

共命鳥

『阿弥陀経』に登場する一身双頭の鳥。極楽浄土に棲むといわれている。

羅漢果

中国生まれの、ウリ科の果物。神果(神の果物)と呼ばれており、不老長寿の秘薬という言い伝えがある。

関連

同様の説話が『安倍晴明物語』に収録されている。

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