法師陰陽師とは、宮中で仕える官人陰陽師とは異なり、非正規の陰陽師である。
背景
平安貴族たちの間に陰陽道が浸透すると、一般市民でも陰陽道を学びたいと考える人が出てきた。
その中で、陰陽道のような術を行使する僧は法師陰陽師と呼ばれていた。
法師陰陽師の印象
『枕草子』一〇九では、法師陰陽師が紙冠を着けて祓を行っている様子を「見苦しきもの」としている。
隠れ陰陽師
官人陰陽師にも法師陰陽師にも属さない陰陽師を隠れ陰陽師という。
『宇治拾遺物語』巻十-百二十二
昔々、主計頭の小槻当平という人がいた。
彼には算博士の息子がいて、茂助という名前だった。
主計頭忠臣の父で、淡路守大夫史奉親の祖父だった。
茂助は普通に生きていれば高貴な身分になれる人だったので、「どうにかして茂助がいなくならないものか。あいつが出世すれば主計頭、主税頭あるいは助、大夫史になるには、他の者では敵わないだろう。代々受け継がれてきた官職である上に才智に富み人柄もいいので、六位でありながらも世間に知られて評判は高くなるだろうから、いなくなってほしい」
と思う人々もいた。
そんな時、茂助の家で異変が起こった。
陰陽師に占わせたところ、行動を慎む日取り書き出してもらいそのまま門を強く閉ざして物忌をしていた。
茂助をよく思わない人は、密かに陰陽師へ彼を呪う術を行わせた。
呪いを行う陰陽師は「物忌をしているのは、慎むべき日だからでしょう。その物忌の日に合わせて呪いを行えば効果が見られるでしょう。ですので、私を連れてその家へ行き、彼を呼び出してください。物忌中なので門を開けてくれることはないでしょう。彼の声さえ聞こえれば、必ず呪いの効果は顕れます」と言った。
茂助の敵は陰陽師を連れて茂助の家に行き、門を激しく叩いた。
使用人が出てきて「誰だ、門を叩いているのは」と言うと、「急用があって伺いました。大事な物忌の最中だと思いますが、門を少しだけ開けて中に入れてくれませんか。大切な用事があるのです」と従者に言わせた。
使用人は茂助のところへ戻り「こういうことがありました」と報告した。
茂助は「本当に無理なのです。この世に生きている人で自分の命を大切に思わない人はいません。家の中に入れることはできません。絶対に聞き入れられません。早くお帰りください」と使用人を介して伝えた。
するとまた、「それならば、門を開けてくれなくても、その遣戸から顔を出してもらえますか。私の方から向かいましょう」と言った。
茂助は自分の運命が決まっていたかのように「何事だ」と言って遣戸から顔を出した。
陰陽師はその声を聞き、顔を見て、あらゆる手を尽くして茂助を呪った。
茂助に会いたいと言った人は「大変なことが起こっております」と言ったが、話すこともなかったので「今すぐ田舎へ帰るので、そのことを申し上げに来ました。早くお入りください」と言った。
茂助は「さほど重要なことでもないのにこうして人を呼び出すとは、道理を弁えない人だな」と言って中に入った。
茂助は頭が痛くなって、三日後になくなってしまった。
こういうことがあるから、物忌中は大声を出したり人に会ってはいけない。
このように呪いを行う人がそれにつけこんでこのようなことをするので、とても恐ろしいことなのだ。
さて、陰陽師に呪いを行わせた人も程なく災いに遭って命を落とした。
「自分の身に降りかかるとは、嘆かわしいことだ」と誰かが言った。