元始天尊は中国の道教において最高神とされている。
しかし、梁の陶弘景(456-536)が編集した『真諾』では「天帝玉皇に朝する法」「玉皇三元に朝す」とあり、玉皇と天帝を同一の存在と見なした。
さらに、宋の真宗(998-1022)が1012年に降下した趙玄朗に対して聖祖上霊高道九天司命保生天尊大帝という尊号を贈った。
元始天尊
元始天尊は道教の最高神で、万物が生まれる前―太元の先に生まれた。
元始天尊を最高神とする考え方は斉梁時代に始まり、北周時代に栄え、隋唐時代に確立した。
南斉の高帝時代(479-482)の『霊宝度人経』によると、「元始とは天尊なり」「元始霊書とはすなわち元始天尊の霊書八会の音である」という記述がある。
また、梁の道士・陶弘景によって編纂された道教の新統譜『真霊位業図』では元始天尊を道教曼荼羅の第一中位(=最高神)に据えている。
さらに、『隋書』経籍志の「道教序録」では、元始天尊は太元の先に生まれ自然の気を受けた常存不滅の存在で、天地が新しく形づくられる度に大羅天の中央にある玉京や窮桑の野に現れ、衆生に道の奥義である開劫度人を授けた。
天地の開劫は41億万年ごとに行われ、天尊の開劫の際は天真皇人が解読し、諸仙官がそれによって人々を救済する。
しかし、後に「元始天尊は万物の始めであり『道』の根本、すなわち『道』が神格化された存在で自然に生まれたのだから、始まりも終わりも存在しない」という解釈に変わっていった。
開劫度人
41億万年ごとに天地が開かれ、元始天尊が玉京あるいは窮桑の野に現れて奥義を授けること。
玉京
道教における天界は三十六天に分かれており、元始天尊はその中で最上層の大羅天にある玄都の玉京に住んでいる。
宮殿は中央と左右の三殿から成り、それぞれの宮殿に仙王、仙公、仙卿、仙伯、仙大夫が居る。
地面には黄金が敷き詰められ、純白の大理石で造られた階段がある。
たくさんの珠玉や珍しい宝物があり、樹には七宝が成っていて、麒麟や獅子などの瑞獣が戯れている。
十戒
元始天尊が世界中を視察していると道教を篤く信仰している国があったので、十個の戒律を授けた。
- 目上の人に反発したり、親不孝をしない
- 殺生をしない
- 君主に背かない
- 不淫(淫らな行為をしない)
- 道教を非難したり道教の教えを他人に漏らしてはいけない
- 祭壇を汚したり、祭壇の前で卑猥な服装をしない
- 孤児や貧しい人を騙したり、他人の財産を奪ってはならない
- 酒に溺れたり、悪口や二枚舌を使ってはならない
- 外で裸になったり、老人や病人を捨ててはならない
- 悪いことや、大きな利益を生むことをしてはならない
玉皇上帝
宗の真宗の時代(968~1022)、真宗が玉皇上帝を篤く信仰していたことによって、人々からも最高神として考えられるようになった。
ベトナム道教の最高神。諸位を統括し、柳杏聖母という娘がいる。
配下には人間の誕生と死亡の2冊の大帳簿をつける北斗と南曹や、大晦日に人間の1年間の善悪を天帝に報告する火の精霊・翁竈がいる。
道教の最高神だと考えられているためか、元始天尊と同一視されている。
功過格
毎年、年末になると竈神がそれぞれの家庭の生活を観察した報告書が上神を通じて玉皇上帝のもとに届く。
玉皇上帝は報告書を読んでその人の善行が多ければ翌年福を授け、悪行が多ければ禍いを与える。